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ほたる書房 hotarureadbooks.exblog.jp

ほたる食堂の本棚には、文庫本がちまちまと並べられています。ご来店の際には手に取ってご自由に物語を味わってみてください。 これら記事は、店主が読んだ本のレビュー(に近いもの)。 読書感想文のようなもの。


by hotaru-book

きりこについて /西 加奈子

味方だと信じている本を数冊持っている。
何回読んだかわからないくらい、読んでいる。
いろんな味方がいる。到底クリアーできないゲームのように挑むような気持ちで触れ続けるものもあれば、全幅の信頼をおいているものも、多幸感のプールに浮かべてくれるもの、ひりつくような心をえぐり出すみたいな荒いものまである。

きりこについて
は全幅の信頼をおいているものだ。

最初はつまり、笑える話だ。
軽妙な語りで、単純に笑える話だ。
でもその奥側は、実に尊い。

大きな決断をしなければならない時、あなたは何をよすがにするだろうか?
状況か?見た目か?自分の気持ちか?

どれでもいい。どれをとったって間違いではない。そもそも正解なんかない。美しいばかりが世ではない。

しかしながら、フォーカスはそこではないのだ。

それ(例えば、状況、見た目、自分の気持ち) を信じられるのか?それは本当か?
で、ある。

そんなの言われたってわかんないよ、
それこそ正解なんかないじゃない、
そう返されるのは、まったくもってその通りだとは思う。

でも、それを納得して受け入れる方法がこの本には書いてある。

現実離れした設定の数々と、大げさな仮定を骨組みに物語は進む。だから、単純に笑える。けれどもこれらと引き換えに、ひどく現実的で生活感100%の受容が物語を救う。その決着のつけ方には、胸を打つものがあるのだ。そして、わかる。何を受け入ればよいのか、何を精査すればよいのかが。

個人的な見解だが、この物語に横たわるギャップは優しい気持ちだと私は思っている。
そうでなければ、あまりに悲しいじゃないか。

それはたとえば、釈然としない日常に、「もし宝くじが当たったら、ハワイに移住ね!」と提案するような優しさに似ているから。
すごく気持ちの悪い現状に夢のハンモックを用意するような、枠外にある安心感とも言える。

作中の賢猫、ラムセス2世はこう語る。
「世界は、肉球より、まるい!」
実にそうだ。それを信じさせる、優しさだ。

今しがた読み終えたこの本を、眠る前にはまた最初のページに戻ろうと思っている。
最強の味方を得ているのだ。



きりこについて /西 加奈子_d0392209_17511108.jpg

by hotaru-book | 2018-06-22 17:51